「自著を語る―『変成譜』 (1993、春秋社刊)」 | office_hiroko

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 和光大学A棟816号室を根城にさまざまな活動を展開する山本ひろ子研究室。学内のはみ出し者、山伏、学外から勉強しにきた外人と様々な人種で構成され、いまや一種のアジール(聖域)と化している。毎週一回のゼミの後、夜会と称して山本先生を囲んだ懇談会を開催しており、そこに連れ込まれていつの間にか一員となった者も数多い。ゼミとは別に、有志による勉強会も随時開いている。また学外の学びの場である成城寺小屋講座にも主体的にゼミのメンバーは関わっている。長野県蓼科の山荘や、高知県物部町の「和光大学ものべ荘」、そして鶴川の「岡上ハウス」などの拠点を持ち、日々勉強に邁進する。本HPはそんな山本研の活動の一端を発信すべく2011年5月にリニューアルした。

「自著を語る―『変成譜』 (1993、春秋社刊)」

『フォークロア』1994年3月号より
 
  『変成譜』の装幀は、戸田ツトムさん(と岡孝治さん)である。編集担当の前々からの狙いだったが、「貴方のこの本は戸田さんしかいない」との、畏友のエディター・二宮隆洋氏の助言が決め手となった。
 打ち合わせのため、編集者と私が戸田さんのアトリエを訪れたのは、むし暑い六月の午後のこと。
 「こういう仕事を一度やってみたかった」と戸田さん。「ただし、今までぼくが作った本のことは全部忘れて下さい。そこでの経験やデータは全く役に立たないでしょうから」と念をおされる。
 また、『変成譜』という漢字三文字の書名だからこそ、出来る仕事だとも。
『○○の△△』とか、『○○と△△』というのは、いかにも業界的で、どんなに中味が過激でも、一定の秩序と安定を与えてしまうのだそう。私たちは顔を見合わせた。『変成譜』に決めたのは、ここに来る直前、青山通りを歩いている時で、最後まで『変成の○○』というタイトルが候補として残っていたからだ。
 デザインの主要モチーフとして選ばれたのは、高幡不動蔵「茶吉尼天(だきにてん)像」の中の、剣をふりかざす黒縁色の顔の女天だった。その闇を思わせる憂鬱な女天と対照的に、優艶な白い女天は、実物よりも縦長に引き延ばされて、今しも天から舞い降りたように背面に透かし見える。
 また四箇所には、赤いフレアに包まれた鏡がちりばめてある。宝珠のように光るその鏡面には、狐に乗った白い女天がほんのりと浮かんでいるのだった。戸田さんの眼が創造した、変成の図像である。
 題文字は、重いけれど派手な小豆色。
「小豆色のインキはとても良い。この色は度し難く日本的ですね」とは二宮氏の評。また「名前がひらがなでよかったね」と二、三の友人の弁。

 十一月、島根県飯石群の吉田村(鉄の歴史村)で開かれた鉄のシンポジウムに参加した。それ以来、奥出雲は私を誘惑してやまないのだが、そんなある日、面白い暗合に気づく。江戸時代に作られた、製鉄の女神・金屋神の神像に、白狐に乗り、剣をかざした女天の図像がいくつもあるのだ。どうやら“彼女“は、たたら製鉄の現場―金属変成の宇宙工房にも出現していたらしい。
 その本体と影を求めて、奥出雲へのスピリチュアルな旅が当分の間続くだろう。出雲白向う飛行機の白い尾翼に点滅するテール・ランプは、白狐の尾の上で妖しくもえる宝珠の火かと見粉う・・・。

 十二月に、作曲家の高橋悠治さんから、「狐のコンサートを一緒にやりませんか」との誘いを受ける。『変成譜』の中に虜囚となった“狐”に感応してくれたのだろう、とためらいつつもテクスト作成を引き受ける。
 「荒野から天空へ 飛翔する光の軌跡 現代によみがえる心身変成のドラマ」と銘打った“狐”のコンサートは、七月十二日(草月ホール)と決まった。この夜、“狐”は、変成する音のコンポジションとして現代に復活するはずである。



戸田ツトム
 日本のグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、装幀家である。桑沢デザイン研究所を経て1980年以降、多くの装幀・エディトリアルデザインにおいて若い読者層の支持を得る。85年以降DTPの先鞭を打つ出版を数多く手掛け先駆者的存在になる。鈴木一誌氏と共に『d/SIGN』誌責任編集。神戸芸術工科大学デザイン学部教授。
http://www.kobe-du.ac.jp/2009/11/3098/




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山本ひろ子先生のプロフィール 山本ひろ子
日本宗教思想史専攻。70年代に生まれた「寺小屋教室」にて、原典購読を中心とした活動を続ける。
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